北支点描
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+舌」、第3水準1−85−63]
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青島水族館は全く名ばかりのちっぽけなものであるが、ここの硝子の水槽のなかに、ウマヅラハギというおかしな魚が一匹いる。長さ二十センチあまりのものだが、長めの菱形で、頭が見ようによっては馬の横顔に似ている。こいつが身体も尾鰭もしゃちこばらして、頭を上に尾を下に縦に浮いて、じっと天の一角を眺めている。いつまでもじっとして大真面目でいるので、見ているとこちらが可笑しくなる。北京の中央公園で飼育されてるさまざまの奇怪豪華な金魚も、この一匹のウマヅラハギの姿態には及ばない。
北京の北海公園には、※[#「木+舌」、第3水準1−85−63]という一本の木がある。山東の山にいくらもある木だそうだが、白樺の幹に松の枝葉をくっつけたもので、如何にもふざけている。白い幹に緑の針葉でつっ立って威張ってるので、見ていると、人をばかにするなと云ってやりたくなる。この木の下にウマヅラハギを泳がしてみたら、面白かろう。
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青島の救済院には多くの孤児が収容されている。この救済院の囲壁に、小さな穴があいていて、夜になるとそこで、院内の室から往来へ箱の口が開かれる。箱の中に子供の泣声がすると、室内の者がこれを聞きつけ、箱をひっこめ、中から子供を取出して、それを院に収容する。この仕方によって、捨児する者は人に顔を見られることなくして、児を救済院に委託することが出来る。人情を加味した合理的な処置であろう。
モダーンなハイカラな青島の都市にも、捨児をする者や貰子をする者がいくらもあるそうである。
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支那の一般大衆は概して、幼時には相貌が美しく、長ずるに従って人相が悪くなる、という定評である。女はこれが殊に甚だしく、十七八歳までの美人は頗る多いが、二十歳を越す頃からとたんにお婆さんになり、所謂年増美とか姥桜とかは全くないと云われる。然し例外がないでもない。
青島の平庚五里は遊里であるが、ここの或る房の芸妓の、或は母親ともいい或は阿媽ともいうのが、良人の死後長く独身でいる四十歳をすぎた美人である。
平庚五里は特殊な大建築
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