相当の価格がする。皮をはいだ猫の肉を鼠に食わせ、そして鼠算で繁殖する鼠を猫に食わせる。建物だけで、原料は何もいらずに、猫の皮が無尽蔵に収獲されるというのだ。誰かやってみる者はいないか。
 これは一寸愉快な話だ。猫の肉だけで鼠が育つものかどうか、そんなことはここでは問題にならない。貧乏人は、奇想天外な金儲の話には、理屈を超越するものだ。
 ところが、右の話、実は、イタリーのピチグリリがその作品のなかに、もっと面白く書いている。和田顕太郎氏訳「貞操帯」のなかの「アマチュア探偵」の一部を左に引用してみよう。
 ――「いろんな商売を盛んにやりましたよ。毛皮製造の商会を始めましたが、付属の建物として、バラックが二棟あります。一方のバラックには、毛皮を取るため、猫を飼いました。もう一棟には、鼠を飼って、猫の餌にするので、うんと肥らせました。猫に食われる鼠は、何を餌に育てるかというと、毛皮をひん剥いだ猫の肉を食わせました。こういう遣り方で、最初は面白いくらい儲りましたがね、ある日のことですよ。鼠に餌をやっても、食いません。猫の肉に匂いがするから御免だというのです。猫の方は、鼠の肉に猫の味がするから、
前へ 次へ
全7ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング