。……夢想と云った方がいいかも知れない。眼をあけながら、時には眼をつぶって、夢をみるんだからね。日向に蹲ってる猫のようなものさ。すぐに二時三時にはなる。それから、机の上を片附けたり、何をしようかと考えたり、読みもしない書物を開いたり、火鉢の火をいじくったり、……下らないこまごましたことが無数にあるんだ。そして四時か五時頃になる。そうなると、夕食の時間を待つばかりだ。君なんかには分るまいが、待つということが、単に食事を待つんでもいい、結構な時間つぶしなんだ。夕食を済ますと、外を歩きたくなって、散歩に出る。用も当もなしに歩き廻ってると、疲れることもないし、時間のたつのも覚えない。それに電車に乗ったりなんかして、空いた電車を幾台も待ったりなんかして、家に帰る時分には、もう寝る時間になってるという始末なんだ。……何にもすることがなくて、まるで猫のようなものさ。下宿に大きな三毛猫がいるんだがね、僕が家に居ると、いつも僕の室にばかりやって来るよ。僕の室の前に来て、にゃごう、にゃごう……と二声三声鳴くんだ。返辞がないと、すごすごと帰って行くそうだ。僕が居る時には、いつまでも立去らない。障子を開けてや
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