苦しんでる時――苦しみなんて大抵つまらないことが多いものよ――私まで一緒に苦しんでごらんなさい、家の中はどうなるでしょう? 二人で陰気な顔ばかりつき合してたら、堪らないじゃありませんか。苦しみを二重にするばかりですわ。片山も私もそのことをよく知っているんです。それで片山は、自分に苦しいことがあっても、私には何とも云いませんし、私はまた、出来るだけ晴々とした顔をして、片山の苦しみを和らげてやるんですのよ。でも万一の場合になったら、片山の苦しみが余り大きくなりすぎたら、私にだって、その苦しみの半分を背負うだけの覚悟は、ちゃんとついていますよ。片山もそれはよく知っています。そして私達は互に信頼してるわけですよ。」
 そういう二人の生活の調子を、昌作は知らないではなかった。然しそれは、今彼の心に変な暗い影を投じてるものとは、全く無関係な事柄だった。そして彼は、その暗い影について、その影を投じてくる禎輔のことについて、どう云い現わしてよいか、もどかしい思いのうちに、沈黙していた。達子も暫く黙っていたが、やがてまた彼を当の問題に引出しかかった。
「ねえ佐伯さん、もうあなたもいい加減真面目になって、
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