前後ごたごたしていて、要領よく話せないが……要するにこうなんだ。その時になって、頭の隅から、君のお母さんと僕とのことが、ふいに飛び出して来たのさ。そして僕は、一寸自分でも恥かしくて云いづらいが、達子と君とのことを……疑ったのでは決してないが、君のお母さんと僕とのことが一方にあるものだから、今に僕が死んだら、達子と君とが同じようなことになりはすまいかと、いや、僕が生きてるうちにも、そんなことになりはすまいかと、現になりかかってるのではあるまいかと、馬鹿々々しく気になり出したものさ。君は丁度、僕が君のお母さんに馴れ親しんでたように、達子に馴れ親しんでいるからね。」
 昌作は驚いて飛び上った。それを禎輔は制して、また云い続けた。
「まあ終りまで黙って開き給え。……そこで、一口に云えば、僕は君と達子との間を嫉妬したのさ。僕が嫉妬をするなんて、柄《がら》にもないと君は思うだろう。全く柄にもないことなんだ。然しその時僕の頭の中では、僕と君のお母さんとのことと、君と達子とのこととが、ごっちゃになってしまっていた。それに、君が九州行きをいやに逡巡してるものだから、或は達子に心を寄せてるからではあるまい
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