いことかも知れないわ。案外いい話かも知れないわ。……それから、その女の人のことね、気持がきまったら聞かして下さいよ。その方は私の受持だから。……私がうまくまとめてあげますから、ほんとに、心配しないでもよござんすよ。」
 昌作は外に出て、急に、何だか達子へ云い落したことがあるような気がした。といって、それが何であるかは自分でも分らなかった。考えてもおれなかった。禎輔の話というのがしきりに気にかかった。
 けれど、実際達子が云ったように、すぐに行っては食事中だと気がついて、途中で電車を下りて少しぶらついてから、まだ早いかも知れないとは思いながらも、待ちきれないで武蔵亭へはいって行った。
 片山の名前を告げると、彼はすぐボーイに案内されて、二階の奥まった室へ通された。そして一目で、自分の疑惑が事実であることを見て取った。
 一方が隣室との仕切戸になっていて、三方白壁の、天井が非常に高く思える、狭い室だった。天井から下ってる電燈の大きな笠と、壁に懸ってる一枚の風景画との外には、殆んど装飾らしいものは何もなく、真中に長方形の卓子が一つ、椅子が三四脚、そして小さな瓦斯煖炉の両側に、二つの長椅子が八
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