這い出して、手足を踏ん張り背中を円くして、大きな欠伸《あくび》をした。昌作も何ということなしに起き上った。炬燵の温気に重苦しい頭痛がしていた。何か重大なことでも忘れたように、眉根を寄せて一寸考え込んだ。それからはっと飛び上った。淋しければ[#「淋しければ」に傍点]という詩のことを思い出した。けれど、机の前に行って本箱の抽出の原稿に手を触れる時分には、深い憂鬱が彼の心を領していた。……明日《あす》知れぬ幸《さち》を占うことなかれ……沢子がなおした詩句を口の中で繰返しながら、詩稿を一つ一つ眺めてみた。三文の価値もない自分の残骸がごろごろ転ってる気がした。胸では泣きたいような気持になりながら、顔には自嘲的な皮肉な微笑が漂った。彼は詩稿をごたごたに抽出にしまって、読みつくした新聞をまた取上げた。打ちかけの碁譜がついていた。目《もく》の数を辿りながら読んでいった。終りまでくると、碁盤を引寄せて譜面通りに石を並べ、その先を一人でやってみた。一寸した心の持ちようで、白が勝ったり黒が勝ったりした。そんなことを何度もやり直した。炬燵の上に飛び上って、顔を撫でたり足の爪の間をかじったりしていた猫は、此度は其処に蹲って、両の前足を行儀よく揃えて曲げた上に※[#「臣+頁」、第4水準2-92-25]をのせ、碁盤の白と黒との石が入り乱れて一つずつ殖えてゆくのを、珍らしそうに、而も退屈しのぎといった風に、ぼんやり眺めていた。うっとりした瞳の光が静に静に消えてゆくのを、少し強く石の音が響く毎に、またはっと大きく見開いた。その様子を昌作は振返って眺めた。猫も彼の顔を無心に見上げた。彼は碁盤を押しやり、炬燵の中に足を投げ出し、火鉢の縁と膝頭とに両肱をつき、掌で※[#「臣+頁」、第4水準2-92-25]を支えながら、暮れかかってゆく黄色い日脚を、障子の硝子越しに眺めた。猫はぶるっと一つ身を震わし、彼の膝の上にのっそり這い込んで、いずまいを直しながら、前足の間に首を挟み円くなって眠った。虎斑《とらぶち》のその横腹が呼吸の度に静に波打ってるのを、昌作は暫く見ていたが、やがてまた顔を上げて、障子の硝子から外に眼をやりながら、底に力無い苛立ちを含んだ陰鬱な夢想に、長い間浸り込んだ。
 けれど夜になると、その夢想の底の苛立ちが表面に現われてきて、彼を自分の室に落着かせなかった。何か思いもかけないことが今にも起りそ
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