っていた。
相手の見境はなかった。人妻であろうと、未亡人であろうと、独身者であろうと、構わなかった。ただ、こういう席に若い令嬢は殆んどいなかった。
連れ込み専門の家ではないとしても、とにかく割烹旅館、志村がよく泊ってくるという家に、婦人を誘ってフグ茶を食いに行くとは、いささか穏当ではなかった。
反応は種々様々だった。
顔を真紅にして俯向いてしまう女もあった。
怒ったようにそっぽを向く女もあった。
ほほほと笑殺する女もあった。
「どうぞ、お伴させて頂きますわ。」と揶揄するように言う女もあった。
それだけで、志村は顔を挙げて反り身になり、素知らぬ風に煙草を吹かした。なんだか憂欝そうでもあった。心持ち眉根を寄せてることもあった。
実際に、何日の何時頃と、彼が誰かを誘ったことは、勿論機微に属する事柄ではあるが、一度もなかったらしい。
彼の「内緒話」を側で漏れ聞いた武原は、或る時、彼と二人きりで街路を歩いていた折、ふと尋ねてみた。
「フグの茶漬けとかいうものを、君は言ってたことがあるが、ほんとうにあるのかい。」
「あり得るね。」と志村は答えた。
「え、あり得る……。」
「鯛茶が
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