は密談してるかのように見えた。
「実は、あなたの奥様として、申し分のないかたがございますのよ。」
地位もあり財産もある家柄のひとで、戦争未亡人だが子供はなく、実家に復籍していて、教養といい人柄といい、志村夫人としてうってつけだそうである。
志村はにやにや笑った。
「それは光栄ですな。酒の肴にするには、少し勿体ないお話じゃありませんか。」
カクテルをなめる志村を、房代夫人は睨むように眺めた。
「そういう御返事だろうと思っておりましたわ、近頃のあなたの御様子では。」
「様子って、どこかへんなんですか。」
志村はおどけた真似で、顔を撫でてみせた。
「志村さん、すこしお慎みなさらなければいけませんよ。」
急に、房代夫人の調子が変り、そして声が低くなった。
「あなたのお宅には、ずいぶん、女のお客さまが多いそうでございますね。そしてあなたは、朝からお酒を召上ってるそうではございませんか。」
「そうですなあ、考えてみればそんなこともありますが……。」
「まあ、黙ってお聞き下さい、洗いざらい言ってあげますから。ありのままを申すんですのよ。」
志村は肚をきめて、口を噤んだ。両腕を組んで卓によ
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