間に何百里という早さで、どこともなく飛んで行きました。
三
王子は一生懸命に鳥の首筋にしがみついていましたが、だいぶたって、鳥がにわかに飛ぶのをやめましたので、恐る恐る眼を開いてみますと、まあどうでしょう。そこは雲の上までそびえ立った高い山の頂《いただき》で、はるか向こうの方に五色《ごしき》の雲がたなびいて、その中からまん円《まる》い太陽がぎらぎら出てくる所です。一面に銀の粉がまき散らされたような空と五色の雲とに、出たばかりの太陽の光がぱっと輝り映えています。あまりの美しさに、王子は我を忘れて眺め入りました。
しばらくたつと、鳥が一つ羽ばたきをしましたので、王子はまたしっかとその首筋《くびすじ》にしがみつきました。鳥はやはり一時間に何百里という早さで、そして音も立てずに飛んでいって、今度は広い牧場の中の一本の木の上にとまりました。見渡す限りはてもない広々とした牧場で、いろんな花が一面に咲き乱れていまして、草の葉にたまった水銀の露の玉をとばしながら、雪のようにまっ白な羊の群が遊んでいます。
しばらくすると、鳥はまた一つは羽ばたきをして、王子がその首筋にしがみつくのを
前へ
次へ
全21ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング