夢の卵
豊島与志雄
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)澄《す》みきって
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|瞬間《しゅんかん》のうちに
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一
遠い昔のことですが、インドの奥に小さな王国がありました。その国の王様の城は、高い山のふもとに堅い岩で造られていました。前にはきれいな谷川が流れており、後ろには広い森が茂っていました。谷川の水はいつも冷たく澄《す》みきって、苔《こけ》むした岩の間にさらさらと音を立てていますし、森の奥には何百年となき古い木が立ち並んで、魔物が住んでると言われていて、ほとんど誰も足を踏み入れる者がありませんでした。
その城に、美しい若い王子が一人ありました。朝のうちは、えらい学者達についていろんなことを学び、午後になると、城の中の庭を駆け廻ったり、城の前の谷川で遊んだり、また時には、谷川の向こうの町やその近くの野原を、象の背に乗って散歩しました。晩には、国王に仕えている年とった侍女達《じじょたち》から、おもしろい話をききました。そして夜眠ってからは、さまざまな夢をみました。鳥や獣《けだもの》や虫
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