が、鏡に照らされてるせいか、翼がよく利かないで、ばたばたと地面へ落ちて来ました。そしてなお足で逃げようとするのを、強い家来達が大勢《おおぜい》で取って押えて、象の背中の籠《かご》の中へ入れてしまい、籠の上にはさらに袋をかぶせました。
皆は鏡の力にいまさらながらびっくりし、次には踊り上がって喜びました。国王は魔法使いを捕《とら》えたつもりでいましたし、王子は夢の精を捕えたつもりでいました。そして一同は喜び勇んで城の方へ帰って行きました。
城に着くと、城の中の者はもちろんのこと、話を伝え聞いた町の人達までが大勢、魔法使いが捕《つかま》って来るというので、首を長くして待ち受けていました。国王は城の広い庭に鳥籠《とりかご》を下ろさせ、それから袋を取り去って中をのぞきました。まわりの人達も一度にのぞき込みました。
ところがどうでしょう。籠の中には、魔法使いもいなければ金色の鳥もいませんでした。ただ一つ、大きな黄金《おうごん》の卵《たまご》形のものが転がってるきりでした。皆はあっけにとられました。国王は早速《さっそく》例の鏡をさしつけてみましたが、やはり大きな黄金の卵形のもので、その色も光も形も少しも変わりませんでした。知恵の鏡の力をもっててしてもどうにもならないとすれば、人間の力でどうなりましょう。ただ黄金の卵というきりで、何のことやらわかりませんでした。多くの学者達も口をつぐんでしまいました。
国王は少し変な気がしてきまして、あの金色の鳥は魔法使いでなくて、あるいは王子の言うように夢の精だったかも知れないと、思い始めました。王子は初めから夢の精だと思っていましたから、今それが卵になってしまったのを見て、大変悲しがりました。そして、国王からその卵をもらって、自分の部屋の戸棚《とだな》に飾りました。
六
その晩、王子は夢をみました。この前の通り紫の雲に乗って、あの白い毛の老人が出て来ました。そして王子にこう言いました。
「王子、あなたは無法なことをなされました。けれど今度《このたび》だけは許してあげます。もう二度と森の中に上ってきてはいけません。夢の精はなかなか人間の手に捕《つか》まるものではありません。もうちゃんと私の懐《ふところ》に戻ってきています。そして、あなたには知恵の鏡に免《めん》じて、卵を一つ差し上げたそうです。それを大事にしまっておおきなさい。城の前の谷川に月の光がさして、そして水が自然に静まる時があったら、その卵《たまご》を水鏡《みずかがみ》に写してごらんなさい。夢の姿がはっきり見えてきます。またいつか時が来たら、その卵がかえって、金色《こんじき》の鳥が生まれ出ます。私の言葉を疑ってはいけません。そしてまた二度と森の中に上《のぼ》って来てはいけません」
それだけ言って老人の姿は消えてしまいました。
王子は不思議な気がして夢からさめました。起き上がると、もう東の空が薄紅《うすあか》くなりかけていました。王子は国王と女王との所へ駆けて行きました。国王も女王も起き上がっていました。
「今私達の方からあなたを起こしに行こうと思っていたところですよ」と女王は言いました。
王子はすぐに夢の話をしました。すると、実は国王も女王も同じ夢をみて起き上がったのでした。三人は不思議な思いをしました。国王も今では、あの金色の鳥は夢の精だったことを知りました。そして城の後ろの森にはいることを、改めてすべての人に禁じました。
それから王子は、月の照ってる晩は何度も城の前の谷川の所に出て、その水を見渡しましたが、水は岩の間を音を立てて流れていまして、自然に静まるなどということはとてもなさそうでした。試みに黄金《おうごん》の卵を持っていって写してみても、早いざわめいた流れですから、少しも写りはしませんでした。それで王子もしまいには諦めて、番人を置いて谷川を見張らせました。けれどいつまでたってもその水が自然に静まり返ることはありませんでした。
王子はその方はもう思い切って、今度は卵がかえるのを待ちました。銀の籠《かご》を国王から作ってもらい、その中に香木《こうぼく》の屑《くず》で作った巣を入れ巣の中に黄金《おうごん》の卵《たまご》を置いておきました。そして朝と晩とには必ず中をのぞいてみました。けれどもやはりいつまでたっても元の卵のままでした。
そのうちに国王は亡《な》くなり、王子が国王の位に即き、次いで自分もまた年をとって亡くなり、それから幾人《いくにん》もの王が代々後を継《つ》いで、幾千年もたちましたが、城の前の谷川の水が静まることのないように、黄金の卵がかえることもありませんでした。またその卵をかえすことを知ってる者もいませんでした。今になおその卵は、夢の卵と言われて、銀の籠の中の香木の巣の中にはいっています。
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