んでした。
王子は初めて悲しくてたまりませんでしたが、そのうちに、ふと考え直してきました。国王や強い家来達の助けをかりて、あの夢の精を生捕《いけど》りにすることが出来たら! そう思うと急に元気が出てきました。
「それでは僕がその金色《こんじき》の鳥の所へ案内しましょう。そのかわり鳥を少しも傷つけないで生捕りにして下さい」と王子は頼みました。
国王は大変喜んで、王子の言う通りにすることになりました。
「だが、誰も武器を持ってゆかないかわりに、知恵の鏡だけは持ってゆく」と国王は言いました。
知恵の鏡というのは、その国に昔から伝わってるものでありまして、それで照らすと、どんな化《ば》け物でもすぐに正体を現わしてすくんでしまい、どんなものでも人の思うままになるという、世界に二つとない宝でした。
五
夜が明けると、国王と王子は強い家来を二十人ばかり引き連れ、皆一人一人象の背に乗り、一つの象には大きな鳥籠《とりかご》をのせて、城の後の森の中へ上がって行きました。
王子は道案内者としてまっ先に進みましたが、一昨日の夜ほの白い道が続いていたのはどの方向だか、さっぱり見当《けんとう》がつきませんでした。何しろ誰もはいったことのない山の森で、昼でさえその中はまっ暗なほどおい茂っていて、枯枝《かれえだ》朽葉《くちは》の積もり積もった上に、茨《いばら》や葛《かずら》がはい廻っていて、いくら象でもなかなか上って行けませんでした。その上、森の奥深くへ来ると、森全体が恐ろしい勢《いきおい》で唸《うな》り出しました。けれど王子達の方には宝の鏡がありました。茨や葛の中にふみ込んでも、方向に迷っても、森が唸っても、一々鏡に照らして難をさけ、次第《しだい》に山の中ほどまで登って参りました。
やがて皆は、森の少しうち開けた平たい所に出ました。見ると、向こうに大きな樫《かし》の木が立っていまして、その幹《みき》にある洞穴《ほらあな》みたいな穴の所に、金色《こんじき》の大きな鳥がとまっていました。皆はそのまぶしいほどの美しい金色の光に、あッと言って驚きました。鳥は昨日の疲れか、首を垂れて眠っているようでした。
国王は驚きが静まると、「それッ!」と家来《けらい》達に合図をして、鏡を差し上げながら鳥の方を照らしました。そのとたんに鳥は首を上げて、皆の方を見て、飛んで逃げようとしました
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