病んで、長い間ねていて、殆んど絶食同様の療法をしていた。そして漸く、おまじりを少量許された時、その喜びはどんなだろう。子供の病気は何よりも不自然であり、子供の節食は何よりもいたいたしい。重湯に御飯粒がいくつか浮いてるのを、持ってこられると、彼はいきなり起きあがって、寝床の上に行儀よく坐った。そしてその小さなお茶碗とお箸とを取り、重湯を一口すっては御飯粒を一つ一つ拾いあげて食べた。丁度そこに居合せた木村は、それを見ているうちに、瞼の中が熱くなり、それを意識すると、激しく涙が出てきた。小さな子供の、なんという清い食欲、生の営みであることか。木村は涙を流した。
 その、うちの坊やの姿なのである。だが、見ようによっては、遠い地平に、一人の子供が、やはり砂地に鶴嘴をうちこんでいる。一粒の麦か米かを培うつもりなのであろうか、それとも、ただ遊んでいるのであろうか。
 瞬《まばた》きをすると、子供の姿は消え、園の中はもう薄暗くて、見通しがきかないのであった。

 木村は云う――。
 私はこの雑草と石と水と怪しい生物との庭が好きです。好きだから黙っていたのです。
 第一人に話したら笑われるでしょう。然し
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