ばしば、あまりにしばしば、あなたを訪れて来て、ただあなたの側にいるのを楽しみにしていました。その高木君を、あなたはやさしく、あまりにやさしく、もてなしました。そしてあなたたちは、和歌のことを話し、芝居のことを話し、花のことを語り、小鳥を眺めました。それを私は悪いとは言いませんよ。早春の候で、もう梅の花は咲きそろい、桃の蕾はふくらんでいますからね。それから庭には、椎の古木があって、その梢近くの空洞には、雀が巣をつくり、雌雄仲よく嘴をつっつきあっては愛を語っていますから、自然とその方へ眼も向くでしょうよ。それらの雀を眺めて、あなたはうっとりと微笑み、高木君は溜息をつきましたね。
あなたは十五年も年上の良人に長年仕えてきて、そして今では未亡人で、もう更年期にも近づいてるのに、独りで置くには惜しいと噂されるほどの容姿です。高木君は顔立もみなりも整ってるおとなしい人柄で、あなたより十年あまり若い独身者です。だから、あなたが高木君を弟のようにまたは子供のように可愛がろうと、一向に不思議ではなく、高木君があなたを姉のようにまたは母親のように慕おうと、一向に不思議ではなく、それはまあちょっとしたロマ
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