、つまり気持ちに変化があると、風呂を沸かさせるあなたの癖は、ちょっと面白いですね。あなたのところのは五右衛門風呂で、何でも焚けるから便利ではありますが、燃料不足の折柄、ふだんは銭湯に行き、事ある毎に自宅のを沸かさせる、そこが面白いですね。
あなたはその晩、自宅の風呂にのんびりと入浴しました。そして、信昭君のところへ友人が来て、ウイスキーを出すついでに、あなたの方も高木君を相手にウイスキーを飲んで……そしてこんどは、ほんとに汗ばみましたね。私はいささか呆れましたよ。
守山未亡人千賀子さん
あなたは丹前をひっかけて炬燵にあたりながら、ピーナツをかじりウイスキーをなめました。そして湯上りの薄化粧の頬を少しく上気さして、高木君をじっと見つめましたね。
「高木さん、わたしのために、これから、ほんとに勉強して下さいませんか。」
高木君はびっくりして、返事につまったようでした。誰だって、だしぬけにそんなことを言われたら戸惑うでしょうよ。
「ほんとに勉強して下さるわね。」
あなたは畳みかけてそう言って、やさしい眼付を見据えたままでした。その眼付に縋りつくようにして、高木君は漸く言いました。
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