。皆さんがしきりにお勧めなさいますけれど……。」
 そのような外交的な言葉を、大塚老夫人は無視してかかりましたね。
「わが党の勝利は眼に見えているそうですよ。」そして大塚夫人は声を低めました。「厚生省など婦人の意見がもっとも必要だそうですから、その参与官にあなたが当てられているとか聞きましたよ。」
「まあ、おからかいなすってはいやでございますわ。」
 あなたは拗ねたような身振りをし、そこへ他の人々がやって来たので、話はそれきりに終りました。けれど、その時、あなたの決心は本当にはっきり定まったのではありませんか。当選はたいてい間違いないとして、その前途に厚生参与官、それだけの夢が、あなたの立候補を決定せしめたのです。夢……と私は言いましたが、或は実現されることかも知れません。それにしても、厚生参与官という言葉は、あなたにとっては、何等の内容もない架空のもので、またそれだけに一層光栄あるものと見えたでしょう。
 いつぞや、あなたは或る婦人会で、ちょっとしたお饒舌りをしましたね。
「今やわたくしどもにも、男子と同様に、参政権が与えられました。そしてこの婦人に与えられました権利を本当に生かしま
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