ありましたね。
 五十万円といえば、可なりの金額であることを私も知っています。それが、あなたの属してる保守党では、代議士の選挙費用などに雑作なく使い果されてしまいますね。金があったからこそ当選した代議士が、如何に多いことでしょう。だからあなたが、五十万の金を待ちこがれたことも、私には理解出来ますよ。あなたの御主人が生存中は、さすが政界の黒幕だけあって、ずいぶん多額の金が、あなたの家で受け渡しされたものです。未亡人のあなたの手でも同じことがなされました。そしてこんど、また選挙期になると、いろいろな人があなたのところに出入りするようになりましたね。あなたとしてはどうしても金が必要なところでしょう、守山未亡人という顔がありますからね。
 秋山さんから五十万円の現金が届けられると、あなたはほんとに嬉しそうな顔をしましたね。猫が鼠を捕えたよりももっと嬉しそうでしたよ。鼠を捕えた猫は、率直に飛び跳ねて喜ぶものですが、あなたはそれよりもっと深刻で、胸が躍りたつのを息をつめて押しこらえ、そして抑えに抑えた喜びを、瞳の光りと眼尻の皺のなかに深々と湛えていました。そして嵩張った紙幣束を金庫にしまってから、
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