てて下水道の口をのぞいています。しかしいつまでたっても、もう帽子は二度と出て来ませんでした。
 帽子はもうちゃんともとの悪魔の姿になって、下水道の口からちょっとのぞいて大勢《おおぜい》の人を見ると、こそこそと中の方へはいってゆきました。
「あぶないところだった。だがここまでくればもう大丈夫《だいじょうぶ》だ。どうも変に寒い。珍しいごちそうを食べて、あの男の頭の上で居眠《いねむ》りをしたので、風邪《かぜ》でも引いたのかな」
 そしてそこの下水道の奥のまっ暗な中で、悪魔は、また大きなくしゃみをしました。



底本:「豊島与志雄童話集」海鳥社
   1990(平成2)年11月27日第1刷発行
入力:kompass
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年4月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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