「おや」
 こんどは紳士も頭の帽子に気がついたとみえて、手をあげて帽子を取ろうとしました。もう悪魔は絶対絶命です。手に取って見現《みあら》わされたら大変です。どうしようと思ったとたんに、ふといいことを考えついて、紳士の頭が横に傾いた拍子に、風に吹き飛ばされたふうをして、ふーっと往来《おうらい》に飛び降りて、ころころと転がって逃げ始めました。

      四

 紳士は大事な帽子が風に吹き飛ばされたのを見て、後を追っかけてきました。悪魔にとっては、つかまえられたら一大事です。一生懸命に転がって逃げました。紳士はどんど[#「どんど」はママ]追っかけてきます。そのうちに、立派な紳士と帽子とが駆けっこをしてるのを見て、大勢《おおぜい》の人がおもしろがってついて来ました。
「よく転がる帽子《ぼうし》だな」
「まるで生きてるようだな」
「おかしな帽子だな」
「つかまえてやれ、つかまえてやれ」
 大勢《おおぜい》の人が紳士と一緒になって追っかけてきます。つかまったら最後だ、と悪魔《あくま》は思って、くるくるくるくるまわりながら、一生懸命に逃げ出しました。あまり転がったので眼がまわって、めくら滅
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