だ若い。いろんなことを為残している。これまで為して来たこと、これから為すべきこと、ぼんやり夢想していたもの、はっきり掴んでいたもの、味いつくしていない多くの喜びや悲しみ、自分自身の肉体と精神、自分自身の生活、自分自身の世界、それら凡てのものは、今俺が死んだらどうなるだろう。闇に呑み込まれてしまうばかりだ。それがどうして悲しまずにいられよう。
 A――それら一切のものが、闇に呑まれようとどうしようと、そんなことはどうでも構わない。生きてる間だけ十分に生きてた、という意識だけで俺には十分なのだ。
 B――俺が今茲で死んだなら、俺自身に関する一切のものは、永久にこの世から亡びてしまうのだ。幾億万の人間が生れて来ようと、俺自身と同じものは何一つ世に現われはしないだろう。
 A――そういう風に唯一無二にこれまで生きてきた、という意識だけで俺には十分なのだ。
 B――其処に俺の看病に疲れて眠ってる妻は、俺が死んだらどうなるだろう、それから、子供や、両親も……。皆が俺を頼りにしているのだ。
 A――彼等は、俺が死んだら一時悲しみはするだろう。然し俺の身体が清らかな灰になり、石碑の下に納められる時、彼
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