のなら、俺は平然とした輝かしい死に方をして、彼等の心のうちに、生死の彼方からさす平和な光を投げ込んでおきたいのだ。
B――俺は生死の彼方などというものを信じない。死の彼方は空虚な闇であり、生の此方だけが、生のなかだけが、輝かしい光である。俺はその光のうちに彼等を包み込んでおきたい。……単に彼等ばかりではない。あの花籠を持って来てくれた女達や、あの果物籠を持って来てくれた友達のためにも、俺は生きていてやりたいのだ。俺が死んだなら、彼等や彼女達はどんなにか力を落すことだろう。そして俺の敵共は、どんなにか喜んで我儘を振舞うことだろう。味方の者達に悲しみと落胆とを与え、敵の者共に喜びと勇気とを与えること、それをどうして遺憾に思わずにいられよう。
A――俺はそうは考えない。俺が死んだなら、味方の者達は一層勇気を振い起して、そのためにずっと豪くなるだろう。そして敵の者共は、張合がなくなり油断をして、そのために却って退歩するだろう。もし俺が心配をするとすれば、味方の者達のためにではなくて、反対に、敵の者共のためにである。
B――お前は理想というものを、生きることの目的を、すっかり取失ってしまっているから、そんな考え方が出来るのだ。
A――いや俺の理想は、お前の理想のように偏狭ではない。俺は凡ての人をよりよくしたいのだ。
B――それでは、この病院の中にいる患者達のことを考えてみるがよい。病院の中では、一人の患者の死亡は、如何に暗い打撃を凡ての患者に与えるか、それをお前も知っているだろう。殊にこの病院には今、俺と同じ病気の重症患者達がいる。あの人達が俺の死を聞いたなら、どんなに心を打たれ気を挫かれるか知れない。或はそのために絶望しきって、助かる者まで死ぬるかも知れない。殊に付添の人達は、俺の死によって、自分の患者の死を眼に浮べて、どんなにか痛ましい気持になるだろう。そのためにでも、俺は容易に死にたくない。
A――その代りに、俺は全く反対のことも知っている。俺が死んだことを聞いて、この病院の患者達のうちには、自分がまだ生きてることを、しみじみと有難く感ずる者があるだろう。その有難い感じが、自分の生を一層愛し慈しむ感情が、死ぬべき者をも救うかもしれない。その付添の人達も、自分の患者がまだ生きてることに力を得て、輝かしい気持で看病に努力するだろう。彼等は眼に感謝の涙を浮べて、な
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