た時間を費してる私達の生活の、底をかき廻されたものだとしたい。淋しい酒宴になっていった。冗談口も冴えなかった。私達は無理にも酔おうとした。それから、二人の芸者をひっぱって、また席をかえて飲んだ。おけいはむっつりついて来た。宮崎と清子とが、知らん顔をして酒をのみ続けていた。
 その晩、各自にどうなったかは私の知るところでないが、翌日、「笹本」の二階で、昏々と眠り続けてる宮崎の枕頭に、清子は、根のぬけた乱れ髪のまま、血の気を失った顔で、じっと坐っていた。その耳の下の方に、物にぶっつけた紫色の斑点があった。おけいは、眉間の皺を深く刻んで、よけいな口は一言も利くまいと決心してるかのようだった。髪だけきれいになで上げてるのが目立った。私が電話で呼ばれて行った時にも、宮崎は昏々と眠り続けてるばかりだった。眼が更におち凹んで、額から顔へかけて肉附がすっきり……澄んでると思われるほどで、何の苦痛の表情もなく、身動き一つしなかった。呼び迎えられた医者は、長い間その顔を眺めていたが、静に二日も眠らしておけばいいでしょうと、事もなげに云った。宮崎の懐から、カルモチンの錠剤の壜が見出された。常用していたものと
前へ 次へ
全38ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング