なる現実のうちにも一種の理想主義を見出そうと欲する。茲に一種のと言う所以は、この理想主義が際限もなく伸展するからであり、その先方は文学自体が持つ夢想のなかに没して、それを辿ってゆけば、やがて人間性の破壊にまで到達するかも知れないからである。そしてこの窮極の点に於いて、この精神は逆に、原子爆弾をその象徴とする科学上の新時代に対抗して、人間性を擁護しようと意図する。だがそこに至るまでに、さし当ってこの精神は、あらゆる卑俗を忌み、自己を高貴に保とうとする。その性質は謂わば貴族主義である。
茲に言う貴族主義とは、社会生活上のそれとは異る。権勢や富や華美など、階級的な特権を意味するのではない。卑俗とは生命力の微弱なことを言い、高貴とは生命力の強健なことを言うのだと、太陽の光のなかで考える、そういう性質を意味するのである。それ故にこの貴族主義者は、精神的に甚だ多欲なのである。あらゆることを見、あらゆることを考え、あらゆることを夢みようとする。神に身を任せると共に、悪魔にも身を任せる。つまり、社会生活上の貴族主義者が衣食住に於いて貪欲放縦であるが如く、この貴族主義者は思惟に於いて貪欲放縦なのである
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