文学精神は言う
豊島与志雄
廃墟のなかに、そしてその上に、打ち建てられるであろう建築は、新らしい様式のものであらねばなるまい。暴風雨や天変地異に堪えるだけの、堅牢さが意図されるだろう。人間の住居にふさわしいほどの、美観が意図されるだろう。居住者に出来る限りの幸福を与えるような、便益さが意図されるだろう。そして外的条件、社会的条件は、如何に文明の程度が低かろうとも、例えば日本に於けるがように電気や水道や瓦斯などは時々停止するものであるという観念から、未だ脱しきれない事態であろうとも、そういう悪条件を克服するだけの設備が考案されるだろう。雨や雪をよく遮断し、煤煙をよく排出し、太陽の光線を最も多く吸収し、清い大気を最もよく流通させるように、窓や壁の配置が考慮されるだろう。而もそれら一切のことが、簡便と雄勁と美とのうちに企画されるだろう。――そういう建築のことを想うのは楽しい。それが廃墟に打ち建てられるということを想うのは、更に楽しい。楽しいばかりでなく、歓びでさえもある。
だが、そういう建築を造る建築家の精神は、如何なるものであろうか。それは、人間としての矜持ある逞しい美しいものであろ
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