の方でも、いつしかうつらうつらとして、怪しい夢想に陥ってゆくのである。――斯かる夢想の本体はなかなか捉え難い。それはもはや超俗の哲理である。
通俗には、亀について三様の見解があるようである。三様の寓話がそれを象徴する。
第一の寓話――
イソップ物語の中のもので、兎と亀の競争として世界的に有名である。日本でも特殊の完成した形態を取り、一般に知られている。
亀は兎から歩みのおそいのをあざけられまして、それでは競走をしてみようと申込みました。兎は笑って取合いませんが、亀が強いて云いますので、競走をすることになりました。兎は走り出しましたが、途中で、遊んだり居眠りしたりしました。亀はゆっくりとたゆまず歩き続けました。兎がやがて気がついて、決勝点に駆けつけてきますと、亀はもうそこへ到着していました……。
私見――この話の中の亀は、随分気の強い自惚者か、または相手の性質を見通してる賢者かである。結果としては、勤勉が怠惰に勝つのであるが、亀は果して勤勉かどうか疑問で、ただのそのそ歩き続けてるところだけが亀なのである。
第二の寓話――
支那のものとされているが、ドイツの兎と針鼠の話と
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