町などでは、奴隷を酷使しながら、金属工業や機織工業などで繁栄を極め、さまざまな偶像を崇拝して風習は淫靡頽廃していた。ユダヤの地ゲデラの町でさえ、さまざまな偶像の社殿が立ち並んでいた。この中にあってユダヤ人等は、唯一のエホバ神のみを信仰していたが、それはただ在天の神で、如何なる形体をも取り得ないものであり、社殿の内部も簡素なものであった。聖地エルサレムの神殿も、世界各地のユダヤ人からの寄進により、金銀其他の豪華は燦然たるものであったが、神に関する偶像的装飾は何もなかった。
このユダヤ人等は、政治的にはローマ総督と分封王との支配下にあり、宗教的にはエルサレムの祭司の支配下にあって、幾重もの苛税の下に呻吟していた。そして彼等の日常生活は、厳格なる道徳律によって制約されていた。そうした生活のなかで彼等は、昔のいろいろな予言者等の言葉を信じ、救世主の出現を待望し、それを告げる荒野の中の声に耳を澄していたのである。
彼等の上層部には、祭司と教師の階級があって律法や誡命などの解釈に当っていた。そして彼等民衆の大多数は、道徳律を厳守してる所謂清浄な人々であったが、その下に、不浄とされてる人々がいた
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