同様なものである。
広い河のふちで、亀と烏とが仲よしになりました。ところで、年下の方は年上の方を敬わねばなりませんが、さてどちらが年上かさっぱり分りませんでした。すると亀は、この河を向う岸まで早く渡りついた方を年上にしようと、云いだしました。もとより、烏は空中を飛んでゆき、亀は水中を泳いでゆくのです。そんな競争を、烏は笑いましたが、亀が云い張りますので、とうとうやってみることになりました。二人は岸にならんで、いちどに、烏は飛びだし、亀は泳ぎだしました。烏はまもなく向う岸について、「亀さん、まだかい、」と叫びました。すると、近くの草のなかから、亀が首をだして、「もうここに着いてるよ、」と云いました。――烏はひどくびっくりして、も一度やってみようと云いました。そしてまた競争をしましたが、烏が向う岸について、「亀さん、まだかい、」と叫びますと、近くの草のなかから、亀が首をだして、「もうここに着いてるよ、」と云いました。――烏はなおびっくりして、も一度、これきりも一度、競争をやりなおしてみようと云いました。そしてこんどは、烏は河の真中ほどまで飛んだ時、そこで翼をやすめて、「亀さんまだかい、」と叫びました。すると、河の両方の岸に、同じような亀の首がでて、「もうここに着いてるよ、」と同時に云いました。そして烏から見られると、両方とも、眼をぱちくりやって、首をちぢこめ、こそこそと水の中に隠れてしまいました……。
私見――この話のなかで、亀は狡猾な者となっているが、その狡猾さも一種ユーモラスな気味に包まれ、相手を見くびった不敵な大愚とでも云うべきものが目立つのは、亀がおのずから持つ徳の然らしむる所であろうか。結果から見れば策略の失敗だが、他から見て相似た二匹の亀であるところに、失敗は救われているのである。
第三の寓話――
印度のものであるが、内容はイソップの亀と鷹の話や狐と烏の話などと相通ずるものである。
小さな池に住んでいました一匹の亀が、その池に時々来る二羽の鸛《こうのとり》から、いろいろ旅の面白い話をきかされて、自分でも空を飛んでみたくなりました。そこで、鸛にむりに頼みまして、木の枝を一本もってきてもらい、自分はその真中を口でくわえてぶら下り、枝の両端をそれぞれ鸛がくわえて、そうして空中の旅をすることになりました。「地上におりるまで決して口をあけてはいけませんよ、
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