文学から文学の衣を剥ぎ取ることは、文学を「文学以前」のものに引戻すことである。そして、「文学以前」に引戻された文学を、文学の過剰に食傷していた一般大衆は、喜んで迎えた。
 然しながら、これが度重って繰返され、公式的なものになる時、一般大衆のうちの文学的読者層は、再び文学を要望するようになり、作者の方でも、文学的労働としてのディレンマに陥る。
 初めから文学として発生しなかったものならば、問題はない。或は、在来の文学的概念とは異った概念を持ってくることも、可能であろう。然しながら、新らしい階級の新たな文学として――やはり文学として――生産される以上、そして同一種類の生産がくり返される場合、一方には、数量的に、需要に超過する供給を来し、他方には、品質的に、生産工程に於ける「文学の過剰」を来す。
 そのために「文学以前」の文学から文学への復帰が企図される。然しながらこの企図は、生産工程から見れば、かかるものを制作しようというその意図から来る品質的「文学の過剰」を、免れさせる結果になる。ブールジョア文学が、「文学以後」のものから文学へ復帰しようと企図する時、「文学の過剰」を振い落す結果になる
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