ここにいますよ、ここにいますよ、と囁きかける。平素忘れられてることに対する、淋しい怨恨、悲しい復讐、でもあろうか。
それらの人々は、私の方を直視することが殆んどない。顔立さえもよくは分らない。しょんぼりと俯向いている。坐っている時には、肩を落して両手を膝についてるようで、立っている時には、両手をだらりと垂れてるようで、そして頸筋には力がなく、首垂れかげんでいる。そのくせ、その全体が、しきりに何かを訴えかけてくる。これはもうそっくり、日本流の幽霊の姿だ。然し、やさしいなつかしい幽霊で、夢がさめてからも、瞼を開くのが惜しまれる。
そのような夢を、私は自分で意識するよりもずっと頻繁に、みているのではないかと思われる。実際、私は夢をみること甚だ少い。少いのは、覚えていることが少いのであって、本当は、意識しないうちに忘れ去るのではあるまいか。夢に出て来てもよい筈の人々はずいぶん多いのである。
意識的に努めれば、幾人かを引続き夢みることもある。これは女人のことが多い。或る時、小学校時代に親しかった女友だちを夢みた。謂わば淡い初恋の相手である。小学校を出てから以後、嘗て逢ったこともないが、夢の
前へ
次へ
全21ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング