り、息《いき》をついて吹《ふ》くから、その中をまっすぐに歩くのはむずかしいよ。木の葉《は》だって、まっすぐに落《お》ちたり、ななめに吹《ふ》きとばされたりしてるじゃないか」
硝子戸《ガラスど》の外には、まだ風が吹《ふ》いていました。庭《にわ》のすみにある椎《しい》の木の古葉《ふるは》が、一つ二つ散《ち》っていました。風に吹《ふ》かれて横《よこ》にとんでるかと思うと、風がちょっと息《いき》をする間《あいだ》、まっすぐに落《お》ちます。かと思うと、またさーっと風がきて、葉《は》はひらひらと吹《ふ》きとばされます……。
「風って、息《いき》をするんですか」とマサちゃんはいいました。
「うむ、息《いき》をするよ。息《いき》をするというより、風は息《いき》なんだよ」
「なんの息《いき》?」
「なんの息《いき》って……。どういったらいいかなあ、空気《くうき》の息《いき》、神様《かみさま》の息《いき》、いろんなものの息《いき》……ただ息《いき》だよ」
「ただ、息《いき》だけ?」
「息《いき》だけだよ」
「ばかな奴《やつ》だな」
お父さんは声たかく笑《わら》いました。マサちゃんもお母さんもいっしょ
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