てるつもりですが、やがて、右か左かに少しずつまがっていきます。それを見ると、みんなはわっとはやしたてました。けれど、笑《わら》った者もみな、自分の番になると、やはりまっすぐには歩けませんでした。
「こんどは僕《ぼく》だ、見ておれよ」
 元気よくそういって、マサちゃんという子供が、目かくしをして、歩きだしました。
 広い野原の中です。オイチニ、オイチニ……と調子《ちょうし》をとってまっすぐに歩いていきます。
 遠《とお》くなるにつれてだんだん小さく、帽子《ぼうし》の下に白いハンケチの目かくしをしたその後姿《うしろすがた》が、まるで人形のようで……そしてふしぎにも、まっすぐに歩いていきます。
 だいぶ行ってから、くるりと向《む》きなおって、目かくしを取って、
「どうだい」
 見ていた子供たちは、はじめびっくりして、ぼんやりして、それから急《きゅう》に手をたたいてほめました。
 マサちゃんはもどってきました。
「君《きみ》たちは、ただまっすぐに歩こうとばかりしてるからだめだ。自分のくせを知って、練習《れんしゅう》しなくちゃいけないよ」
 そこでみんなは、マサちゃんに教《おそ》わって、まっすぐに歩く練習《れんしゅう》をしました。まず、自分は右か左かに、どのくらいまがるくせがあるか、それをたしかめて、それから目かくしをした時は、それだけ逆《ぎゃく》にまがる気持《きもち》で歩《ある》く……。ところが、それがじっさいはひどくむずかしくて、なかなかうまくいきませんでした。

     三

 日が西にかたむいて、森のかげがうすぐらくなりはじめました。風がでてきました。
「今日《きょう》はこれだけにしておこう。僕《ぼく》がも一|度《ど》歩いてみせるから、よく見ておけよ」
 マサちゃんは目かくしをして、さいごにも一|度《ど》見せてやるというようすで、歩きだしました。
 それが、どうしたのか、少しいってまがりだしました。
 一かたまりになって見ていた者たちは、すぐに声をたてました。
「まがった、まがった……」
 マサちゃんは目かくしを取りました。
「ほんとにまがったのかい」
「まがったとも。いばってたくせに、なーんだい」
 マサちゃんはくやしがりました。そしてまたやりなおしましたが、やはりうまくいきません。
「ああわかった。風が吹《ふ》いてるからいけないんだ。よし、こんどはうまくやってみ
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