舞台のイメージ
豊島与志雄
戯曲創作の場合には、その作者の頭に、一つの舞台がはっきり写っていなければいけない。云い換えれば、人物と事件とが――その現われが、一つの枠の中にかっきりはまっていなければいけない。
そういう舞台的イメージが、戯曲創作の場合には、最も大切であるように思われる。
小説とか対話とか戯曲とか……を区別するのに、出来上った作品について云えば、表現の形式が最も多く関係するだろうけれども、作者の創作的営みについて云えば、舞台のイメージの有無が、最も多く関係するように思われる。如何に戯曲の形式を具備していても、一つの舞台のイメージを以て書かれていない作品は、純粋に戯曲とは云い難い――(日本の文壇にはそういう所謂戯曲が余りに多すぎるような気がする。)
勿論作者にとっては、作中人物の性格や心理や動作や言語や其他あらゆるものが、はっきり浮彫になって見えていればいるほど、益々よい作品が出来るわけだけれど、戯曲になると、それら一切のものを盛る一つの容器――一つの舞台が必要なのである。盛らるべき中身と盛るべき容器とがぴったりとはまって、一つの世界を形造ることが必要なのである。
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