な底深い気持に陥っていく。それは一種の宗教的な気持である。
そういう父母に向って――父はもうこの世にいないし、母もいないが、その両者が一体をなしてるものに向って、私はただ、自分の子供達が丈夫に生長してることだけを云いたい。私のことも妻のことも、私達の生活のことも、其他凡てのことは、私の気持の中では、父母と大した関わりはない。ただ私は、子供達のことをいろいろと細かな点まで、父母に伝えたい。平素子供達のことは多く妻に任せきりで、余り気にかけない私ではあるが、父母のことを思う時だけは、ただ子供達のことばかりが頭に浮んでくる。そして私は切にこう云いたい――私の子供達は、あなたの孫達は、健かにのびのびと育っています、だんだん可愛く大きくなってきます、私と妻とによく似ています、元気でいます……。
父母よ安らかなれ! それが私の最後の願いである。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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