た。
「でも、あのひと、好かれるたちね。山口さんは、ひところ、だいぶ熱心のようでしたし、佐竹さんも、好意を持っていらっしゃるようですよ。」
「だから、私もそうだというんですか。」
 房江は頭を振って微笑んだ。
 吉村も微笑んだ。
「あのひとは、なんだか気の毒ですね。顔も綺麗な方だし、頭もよい方だから、一応はまあ誰にでも好かれるでしょうが……単にそれだけですね。」
「それだけ……ですって。」
「つまり、恋人にも、また妻にも、ふさわしくないところがありますよ。」
「どんなとこなんでしょう。」
「恋人としては、顔の表情があまりきっぱりしすぎていますし、妻としては、手があまり美しすぎますよ。」
「そんなことが、邪魔になるでしょうか。」
「なりますよ。一応は好きになっても、それから先が躊躇される……つまり、後味がわるそうだというのでしょうか。」
「まあ、後味が……。」
「そういう女が、それも、普通の婚期をすぎた女に、ずいぶんありますね。」
「でも、それは、男の方が卑怯だからではないでしょうか。」
「何がです。後味のことですか。」
「ええ、怖いんでしょう。」
「そうですね、後味がわるいというより、
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