ている。場合によっては、怪談を組立てることさえ出来るだろう。然しその怪談は常に、所謂美談とは全く縁のないものであるだろう。美談は悉く馴致されたものの上に成立つが、猫や芸術の怪談は悉く、馴致されきれないものの上に成立つ。
頃日、知人の好意と尽力とで、金目銀目の尾の長い純白の猫を一つ手に入れた。今年正月の生れで、初めての夏の暑気に多少弱っているらしいが、人間たちによく馴れよく戯れながらも、時々、人々を無視して、何物をも無視して、馴致されないものから来る夢想に耽っていることがある。私も、それをぼんやり眺めながら、馴致されきれないものから来る夢想に耽る。そうした夢想が、如何に多く猫のうちに残存していることか、如何に多く私のうちにも残存していることか。そしてそれを私は、猫のためにまた自分のために、力強い喜びとする。この喜びが陰性のものでなく、陽性のものとなる時に、私は創作の筆が執れるだろう。
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2006年4月24日作成
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