物を書くことは、私には嬉しい。疲れた眼を彼等の上に休めることも、また嬉しい。如何に美しい体躯を彼等は具えていることか。
 然し、それら昆虫類のうちにも、私が許せないものが三つある。
 その一つは蚊だ。血を求めて飛び廻ってる蚊だ。
 次は蝿だ。夜の光に迷ってる蝿だ。彼は決して灯に憧れてるのではない。ただ迷ってるだけである。迷いながら、貪欲な腹を波打たせている。翼から有毒な粉をまきちらす蛾でさえ、歓喜のうちに飛んでるのに、蝿は足先に無数の黴菌をつけながら、なお食餌をあさり続けようとしている。
 第三はカミキリ虫だ。私はこの虫のことを悲しく思う。カミキリ虫の幼虫は鉄砲虫である。樹幹にくい入って穴をあけ、遂にはその樹を枯してしまう。樹を愛する心から、私にはカミキリ虫が許せない。若葉や若芽を食うコガネ虫はまだよろしい。生物は何かを食わねばならない。然しながら、樹幹にくい入ってその樹を枯すのは、許し難い。呪われたる運命のカミキリ虫だ。
 それは兎に角、夏の夜毎、私は多くの昆虫類に親しみながら、それらのうちで、蚊と蝿とカミキリ虫とは、最も醜いものであることを発見した。吸血、貪食、有害、そういう理智的
前へ 次へ
全4ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング