かり乾燥して、鉛筆の芯みたいになる。鉛筆の芯と同じく、ぽきりと折れるようになる。そいつを、水につけておくと、自然と元に戻って、また、ひらひらと水に泳ぐ。折れたのはだめだが、折れさえしなければ生き返る。
それはちと信じ難いことだった。盆石の苔などは、すっかり乾燥させ、布にくるみ、箱に納め、数年間放置した後、取り出して水をやれば、一夜にしてまた青々と蘇るけれども、鉛筆の芯になった蛭などは……。然し、本当だと、秦は主張した。それならば実験してみようということになった。
皿の上に蛭をつまみ出し、水気を拭き取って、硝子戸越しにさしてくる秋の陽にあてた。昼間は暇な大田梧郎がその仕事に当った。だが、蛭はいつまでも水分を含んでいて、ぽきりと折れるほどにはならなかった。夏の炎天はもうとくに過ぎ去っているし、まさか火にあぶるわけにもゆかず……蛭は捨てられることになってしまった。
その蛭の室で、秦と波多野との碁がまだ一局も終らないうちに、魚住千枝子がやって来た。小児のようなひそかな跫音で階段をのぼってきた彼女は、黒い繻子のコートを袖だたみにしてハンドバックの上に持ちそえ、廊下に膝をついて挨拶をした。大
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