。」と彼はいいました。「吾々のうちには、どうにも出来ない根深いものがいつも残っているからね。」
「ええそうです。」と曹新はいいました。「ただ、戻って来ましたについて、お許しを願わなければならないことが、二つあります。」
「許すも許さないもない、お前の好きなようにするがよい。だがまあ話してみなさい。」
曹新は顔を下に向けたままいいました。
「一つは、私はこれから、この土地で医療をやりたいと思います。そのために、五年間医学の勉強をしてきました。どうにか実際の治療もやれます。気をつけて見ますと、この家にだって、眼病にかかってる者がいくらもありますし、近村にはいろいろな病人が多いことでしょう。それを、出来るだけ面倒みてやりたいと思います。それからも一つは、これは私一個人の気持ですが、あの徐和が災難を受けた時、庭の太湖石を河に沈めましたが、あの場所に、ちょっとした碑を建てたいと思っています。徐和のためにではありません。私の生き方のためにです。つきつめたところをいいますと、私個人ではなく、徐和のような存在に対して、吾々はこれから闘ってゆかねばならないという信念が、だんだんはっきりしてきました。」
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