は、実際、このようなことを望まれたことがあるのかね。」
「よくは存じませんけれど、お望みになられた筈でございます。」
「なに、望まれた筈だと………。」
「左様に存じます。」
 汗かいたその浅黒い顔には、言葉以外に何物も浮んではいませんでした。曹新が黙っていますと、彼は呟くようにいいました。
「私は早く仕上がるようにと思いまして、出来るだけ手伝っております。」
「早い方がよいのかね。」
「はい、こんどのことに限って、旦那様はお気が長うございます。それもまあ、仕方がございません。」
 へんに底まで見通しているようで、しかもそれを顔に現わさない様子と、仕方がないという最後の言葉とに出逢って、曹新はちらと眉をしかめ、そのまま歩き去ってしまいました。そして池から出るとほーっと大きく息をしました。
 その翌日の夕方のことでした。徐和が一人で池の底にいて、深さや縁取りの工合を見調べ、腕を拱いて考えていました時、突然、頭の上から、巨大な太湖石が崩れ落ち、彼は声を立てるまもなく岩角に頭と背とを砕かれました。
 物音に、下男がやって来まして、太湖石が二三崩れ落ちてるのを見て取り、その下に、徐和が血にまみれ
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