こんで、ウイスキーの杯を重ねた。そして突然きりだした。
「君は伯父さんのことは万事知っているだろうが、隠さずにいってくれないか。一体、伯父さんの今の財産は、どうして出来たんだね。」
「自然に出来たのでございましょう。」
「自然に……。それなら伯父さんが自慢にしていられるあの壺、金銀が一杯はいっていたとかいう壺は、あれは本当に海から出たのかね。」
「それは私は存じません。けれど、あなた様はどうお考えでございますか。」
「分らないから聞くんだよ。」
「私はもと船乗りをしておりまして、海のことはよく知っておりますが、あの壺が長く海につかっていたものでしたなら、貝殻がついたり藻が生えたりしまして、なかなか容易に落ちるものではなく、むりに落せばいろいろ傷がつきます。あの壺にはそういう傷はないようでございます。」
「うむ分った。……それから、伯父さんは時々旅に出られるが、別に商売の用でもなさそうだし、いつも曖昧らしいが、大体どの方面におもに行かれるのかね。」
「私もよく存じませんがあなた様はどうお考えでございますか。」
「分らないから聞くんじゃないか。」
「奥様やお嬢様へのおみやげ物は、大抵、上海あたりの品物のようでございます。」
「ああそうか。……それから、家に時々、穀物類の商人とかがやって来て、奥の室で人を遠ざけて、伯父さんと長い間話しこんでゆくことがあるそうだが、それは本当の商人かね。」
「私には分りませんが、あなた様はどうお考えでございますか。」
「またか。分らないから聞いてるんだよ。」
「普通の商人でありましたなら、それほど長い時間、秘密に話しこむこともございますまい。」
「そうか。……それにしても、伯父さんはよく、済南の紅卍字教の母院や青島の后天宮に、詣られるそうだが、本当かね。」
「本当でございましょう。紅卍字会には相当な寄附金をなすっておいでになります。また、青島の后天宮は、何を祭ってありますところか御存じでございますか。」
「知らないね。」
「あれは、舟神と財神とを祭ってあるところでございます。けれど旦那様はもう、船の方には関係はございません。」
「すると財神だが………まだ財産を殖したいのかな。」
「財産はいかほどあっても足りない場合がございましょう。」
「どんな場合かね。」
「私にはよく分りませんけれど、財産はほかのものと直接につながることが多いようでござい
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