気分の赴くままに動き廻らせた。
 そのうちに保子の像は、或る一つの姿を取って、其処で動かなくなってしまった。
 それは、彼女が日記を読んできかしてくれた姿だった。桔梗の模様を浮出さした凉しげなメリンスの着物に包まれて、彼女の姿はいつもよりなお清らかだった。それが机に半身をもたせかけ、庇うように両袖で日記帳を押隠しながら、腰と筋頸とに軽いねじれを見せて振り向き、底の知れない輝きを含んだ眼付で、こちらをじっと眺めていた。彼は怪しい魅惑をそれから受けた。
 夕食後庭を歩いていると、ふと、彼女のそういう姿が奥の室にあるような気がした。二階に寝転んでいたり、散歩から帰ってきたりしても、やはりそうだった。然し、女中に気兼ねしながら何気ない風で、そっと奥の室を覗いてみると、こちらから射す電燈の光りが、蔦の葉模様の襖に芒と映ってるきりで、室の中は薄暗くがらんとしていた。
 或る日、昼間、女中が用達しに出かけた後で、彼は奥の室にはいってみた。それは殆んど保子が独占してる室だったので、彼はまだ一人で足を踏み入れたことがなかった。何かが期待せられるような心地でそっとはいってみると、中の有様は以前と少しも違わ
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