さわしくなかったし、また、加津美の遊蕩な空気にはふさわしくないのだ。
 加津美のある一区域の外には、戦災による焼け跡が見渡す限り拡がっている。終戦後まだ一年半あまりで、電車通りなどにはぽつぽつ小さな家が建ってはいるが、だいたい原っぱだ。あちこちに瓦礫の堆積があり、いら草の茂みが冬枯れのままに残り、小さく区切った耕作地には、麦が伸びあがり蚕豆の花が咲きだしている。その原っぱへ出ると、喜美子は、いっそう新鮮に子供っぽくなる。
 道路からちょっとはいったところに、腰をおろすのに恰好な石があるので、道で出逢った喜美子を誘うと、彼女はすなおに頷いてついて来る。そして私達は、道路の方に背を向け、地上にただ二人きりのような気持ちで、焼け跡の野原をぼんやり眺めるのである。大気は冷いが、じっと腰掛けていると、夕陽の光りの仄かな温みが肌に感ぜられる。
 喜美子は田舎に生れて、幼い両親と共に東京に出て来た。両親はもう亡い。田舎には、伯父さんやずっと年上の兄さんがいるけれど、一度も行ったことはない。記憶には、美しい小川が一つ浮んでくる。
「いつも、水がきれいに澄んでたわ。深いところでも、底まではっきり見えるの
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