ないで、私の方を怪訝そうに見守っていた。
「お前は僕を信じていないんだね。そんなこたあいけない。……さあ、外に一緒に出てみよう。外はいい気持だよ。」
「だって……。」
「そのだって[#「だって」に傍点]がいけないんだ。さあ行こう。お前は昔はよく、僕と一緒に散歩したがってたじゃないか。」
妻は一寸口を尖らしたが、そのままの相恰で笑顔に変って、急いで髪を撫でつけながら、眠ってる子供のことを女中に頼んで、私の後へついて外に出て来た。
「子供を連れて来るとよかったね。」
「だって、もう眠ってるんですもの、可哀そうですよ。」
「それじゃ、また昼間連れて出ることにしよう。」
穏かに晴れてる晩だった。あるかなきかの風が、香ばしい緑の匂いを何処からか吹き送ってきた。そして私は暫く歩いて、妻へ珈琲と菓子とを奢ってやり、帰りに植木屋の前に立止って、庭に植える樹木を物色してる妻の言葉へ、うわの空で返事をしながら、水が綺麗に振りかけられてる木の葉を、ぼんやり眺めていたが、妙につまらなく馬鹿馬鹿しくなってきた。
「火事でもあるといいが!」
そんなことを心の中で呟き、そんなことを想像して、私は真赤な焔を頭の
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