た。妹の顔に、雀斑が濃くなったり淡くなったりするのを見ました。姉の幼児に、長い睫毛を見ました。庭の木斛の葉に、雀の白い糞を見ました。御影石の門柱に、新らしい欠け跡を見ました。そのほか、無数のものを見ました。それからまた焼け跡の耕地に、麦の葉がそよいでるのを見ました。電車の腰掛に、はみ出てる藁屑を見ました。廃墟のビルヂングに、三十度も傾いてるコンクリートの壁を見ました。焼け跡のあちこちに、湯屋の煙突だけがたくさんつっ立っているのを見ました。そのほか、いろいろなものを見ました。それからまた、この広い荒野のなかに、ぽつりぽつりと建てられてるバラック小屋を見、ぎっしり立ち並んでる古い日本家屋の聚落を見、高層な洋式建物が軒を連ねてるのを見ました。或る処には、人影もない寂寥を見、或る処には、群衆の雑沓を見ました。群衆のなかには、他国の兵士も見ましたし、また、長途の困難な旅行者のように荷物を背負ってる人々を見ました。そのほか[#「見ました。そのほか」は底本では「見ました。 そのほか」]、さまざまなものを見ました。
 それらのものが雑然と積もり重なって、異邦にあるような思いをさえ起させました。その思い
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