に調達することは、荘一清にとって容易ではありませんでしたし、その頃取締りの厳しい品物をひそかに買い取ることは、汪紹生にとって危険でありました。
北京の秋は、夏を追い立てるように急にやって来て、そして晴朗な日が続きます。南海公園の小島の岸には、まだ釣りの遊びをしている人々が見られました。その側に、少し離れて、汪紹生はぼんやり欄杆にもたれていました。
釣りをしてるのは、二三の少年と、中年の夫婦者に連れられてる子供でありました。子供はよく餌を取られてはじれだし、父親からいろいろと教えられていました。母親はそれを笑顔で眺めながら、やはり釣竿を手にしていましたが、自分の浮子《うき》の方には殆んど眼をやりませんでした。少年達は黙って熱心に浮子を見つめ、時折、ぱっと挙げられる釣竿の先には、小魚が躍っていました。
汪紹生は欄杆に半身をもたせたまま、薄濁りの水面に眼を落して、なにか考えこんでいました。亭の中に並べられている卓子の方へ行って茶を飲むでもなく、釣竿を借りてきて楽しむでもなく、また釣人たちの方を見てるのでもありませんでした。時間を忘れたように長い間じっとしていました。
南岸との間を往
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