能を示しそうな柳秋雲をも加えて、それだけあれば、北京で大芝居がうてると思うのも、無理はないさ。」
「そんなことを呂将軍は考えてるんですか。」
「いや、考えてるものか。引きずられてはいるだろうが……。」
「では、誰が考えてるんです。方福山ですか。」
「方福山はまあ進行係というところだね。立案の方はどうやら陳慧君にあるらしい。とにかく、あの二人はいい組合せだ。」
「そして、あなたも、それに加担してるんですか。」
「僕が加担してたら、もっとうまくやるよ。柳秋雲に歌をうたわしたり、あれは可哀そうだった、あんなへまなことはしない。僕はただ傍観者にすぎないんだ。」
「傍観者……それでいいんですか。僕はあなたを軽蔑しますよ。」
「なあに、軽蔑は最後になすべきものだ。事の成行を楽しんで観てるという時機もあるさ。ただね、僕は君達に自重して貰いたいんだ。自重してくれ給え。お父さんが今晩来られないのはよかった。」
「父はそんなことを知ってるんでしょうか。」
「御存じではあるまい。然し、うっかり洩らしてはいけないよ。僕と君との間だけの秘密だ。」
「それは勿論です。だが……僕達、汪紹生と僕とを招かしたのは、柳秋雲だとばかり思っていました。」
「どうしてだい。」
「彼女も、僕達の仲間でしたから……。」
「だが、陳慧君のところに戻ってからは、彼女も相当変ったろう。それにまた、たとい彼女がいい出しても、それを取上げるかどうかは陳慧君の自由だからね。陳慧君は育て親として、彼女の上に絶対の権力を持っている。」
「それを、あなたは承認しますか。」
「事実の問題だ。第三者の否認なんか、当事者には何の役にも立たない。」
「ひどく冷淡ですね。」
「女の問題について冷淡なのは、僕の立前だ。女はどうも危険だからね。」
そして高賓如は朗かに笑いました。
その時、二人は庭を一廻りして、室の方へ戻ってゆくところでしたが、そこの、外廊の柱によりかかって、柱にそえた彫像のように佇んでいる汪紹生に出逢いました。
汪紹生は潜思的な固い顔を少しも崩さず、荘一清にぶっつけるようにいいました。
「あれは済んだよ。」
「そうか。」と荘一清は答えました。
高賓如を憚って、二人はそれっきり何ともいいませんでしたが、拳銃の一件だとはっきり通じたのでありました。
汪紹生はまだすっかり自分を取戻していないようでした。――彼は何か堪えら
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