失望とで、がっかりしてしまった。刑事が俄に押入の片隅を見つめ初めたのを、彼等は殆んど気にも止めなかった。そして云われるままに、釘抜と金槌とを取って来て渡した。
 刑事は押入の隅の一枚の張板に、全身でしがみついていた。金槌と釘抜とでそれをはがした。そしてあり合せの板切を求めて、其処を器用に塞いでしまった。それから漸く立ち上って、廊下に出て着物の塵を払い、めくり取った一枚の板をしきりに眺めた。わきから覗くと、その板には端の方に、少し火に焦げた跡が残っていて、黴みたいな小さい白っぽい斑点が沢山ついていた。がただそれだけだった。
「どうもお手数をかけて済みませんでした。」と彼は云った。「では、この板だけお預りして行きます。」
「もう宜しいのですか。」と晋作は尋ねた。
「ええ、別に異状もないようですから。」
「そんな板が何かになるのですか。」
「さあ……。」と刑事は半信半疑らしかった。
 それでも彼は、お茶を一杯飲むと、新聞紙に包んだ板を大事そうに抱えて、慌しく帰っていった。
「何かがお分りでしたら、私共へも一寸お知らせして頂けませんでしょうか。」と晋作は頼んで見た。
「はっきりした方が気持が安
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