い時、学校にあがる前頃、関節炎かなにかそんな病気をして、それから足が悪くなったのだそうでした。
「誰だって、生れつき片輪じゃありませんわ。」
「しかし、生れつきそんなのもあるでしょう。」
「それは別ですわ。」
 彼女の言うところは、つまり、生れながらの不具者は別として、満足に生れて後に五体に損傷を受けた者は……ということなのですが、それから先を、彼女はこう言いました。
「りっぱに生れついたんだから、それでいいんです。」
 その中に彼女は、彼女自身と直吉を一緒にして言っていました。それがあまりはっきり感ぜられましたので、直吉は、思いが自分の火傷のことに戻ってきて、もうその話を打ち切りたくなりました。そして、天気のことや野菜のことに話を転じ、時なし大根や漬け菜を彼女に抜き取ってやりました。
 野菜の籠をかかえて跛をひきながら行く彼女の後ろ姿を、直吉はじっと見送りました。
 五体が満足に生れつけばそれでよろしい。もしいけないとすれば、さし当り傷痍兵士などはどういうことになるのでしょう。然し、直接自分の火傷のことになると、その考えに直吉は安んじられませんでした。詮じつめれば、五体不満足に生れつ
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