あります。」
「どういうことでしょうか。」
「第一、妹を泥坊にするようなことは、今後は止めて貰いたいのです。」
それは、直吉が全く予期しない言葉でした。呆然としていると、亮助は説明しました。直吉がその畑の作物を自由勝手に採るように正子を誘ったので、正子もその通り振舞っていたが、それが他人の目には、作物盗人と映るし、そういう無責任な指導は怪しからんというのです。
「君のおかげで、妹は泥坊呼ばわりされました。」と亮助は言いました。
直吉はただ呆れるばかりでした。
亮助は更に言いました。
「君は妹と結婚するつもりだそうですが、単なる同情から出たつまらない感傷は、今後は止めて貰いましょう。」
それも、直吉の予期しない言葉でした。
「君の愛情がどんなものであるか、また、妹の愛情がどんなものであるか、それは僕の知ったことでありません。然し、お互の同情から出たものであるとすれば、そんな結婚は滑稽です。僕は率直に言いますが、跛の女と火傷の男とは好一対かも知れませんが、単にそれだけの理由の結婚なら、全く滑稽というより外はありません。そういう好一対は世間の物笑いの種になるだけです。」
不思議なほ
前へ
次へ
全23ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング